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3 鍼とエビデンス

1979年世界保健機関(WHO)が臨床経験に基づく適応疾患43疾患を発表したり、1997年にNIHの合意声明書において鍼治療は手術後の吐き気、妊娠時の悪阻、化学療法に伴う吐き気、抜歯後の疼痛、などに有効であることが示されたりした。また、2003年にも、WHOが臨床試験に関するレポートを出している。しかしながら、WHOの発表に関しては質の低い臨床試験の結果が多数考慮されていることが指摘されており、1997年のNIHの声明書に関しては、その内容は古く、誤りが含まれていることが2010年現在は注記されている。

2000年には英国医師協会も鍼の有効性に関する合意声明を表明。しかしながら、この声明の前提となっている鍼の有効性を示すデータの扱いについては批判がある。

だが、日本の医学界においては2006年時点では、特に鍼に関する共通の声明などはなく、これら欧米の動きから徐々に鍼への注目が広がっている。

質の高い臨床試験の結果を系統的に評価した結果、鍼治療には小さな鎮痛効果が見られるがバイアスと区別することは出来ないとする研究結果が2009年に報告されている。

2010年現在、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の国立補完代替医療センター(NCCAM)によると、大規模な臨床試験の結果、鍼治療は頭痛偏頭痛腰痛、上腕骨外上顆炎(テニス肘)については通常の医療と同等に効果がある(あるいは "同等に効果がない")可能性があるとしている。なお、手根管症候群線維筋痛症生理痛筋筋膜痛、頸部の痛み、変形性膝関節症、術後歯痛については有効性が認められないか、質の高い臨床試験が行われていないとされており、これらの疾患に対する鍼治療の適用は推奨されていない。

例えば膝などの関節に痛みがある場合に鍼治療を行い、療法師から膝に負担をかけないよう患者に対し指示し、それを実行した場合は症状がさらに改善する。但しこれは自然治癒が原因によるもので鍼による治療は疾病に対する直接的な治療効果は全く無いか、殆ど無いのどちらかである。症状に改善が見られないか、痛みが増した場合は、できるだけ早い段階での通常医療への切り替えが望ましい。器質性の疾患が原因の日常生活に支障をきたす痛みを鍼灸で施術するには徒に時間と金銭を浪費するだけであり、現在ではより有効な外科手術や投薬治療が確立している。